GROUP DISCUSSION2024.10.30

地方の鉄道会社が見せる、非鉄道事業の本気とスピード感。ーJR四国・四之宮氏、平田氏ー

GROUP DISCUSSION2024.10.30

地方の鉄道会社が見せる、非鉄道事業の本気とスピード感。ーJR四国・四之宮氏、平田氏ー

四国地域の公共交通の中枢を担う四国旅客鉄道(株)(JR四国)。インバウンドの活性化により、その存在価値は一層高まっています。さらに同社は、ホテルや駅ビル・不動産、飲食・物販などの「非鉄道」事業にも注力。2024年3月に県都高松の玄関口であるJR高松駅に新たな商業施設「TAKAMATSU ORNE(高松オルネ)」をオープンさせたのは象徴的な事例で、他にも新規事業など多彩な動きが起こっています。
2024年6月から新たなJR四国の舵取りを行う四之宮和幸社長と、そうした非鉄道事業を牽引する事業開発本部長の平田成正常務にお話をうかがいました。「四国地域は運命共同体」と語るお二人は、四国ならではの働く価値についてどうお考えでしょうか。

みんなが主役となり、主体的に動ける環境をつくる


武市
JR四国は土台である鉄道事業とともに、ホテル、駅ビル・不動産、飲食・物販などの「非鉄道」事業にも注力されているとお聞きしています。平田常務はその事業開発を主導される立場とのことですが、まずはご経歴から教えてもらえますか?
平田
国有の「国鉄」から民間企業に変わったばかりの「JR四国」に入社したのは平成元年(1989年)。特に鉄道にこだわりがあったわけではないのですが、「四国を元気にしたい」という思いが漠然とあり、入社を決めました。現社長の四之宮とは同期で、新人研修なども一緒に受けた仲でもあります。
入社時の配属は運輸部門。車掌や車両の検修係員を経て、列車指令やダイヤ改正を担当しました。その後の営業部門ではJR発足後はじめての運賃改定を担当し、経営企画部で事業計画、財務部で資金管理など、様々な経験をさせてもらいました。
初めて非鉄道事業に配属されたのは、2002年。30代中盤で讃岐うどんの製造・販売などを行う(株)めりけんやに出向し、東京や大阪での店舗立ち上げを担当しました。それから総合企画本部などを経て、現在のJR四国ステーション開発(株)の社長を拝命しました。ステーション開発は商業施設の管理運営や、飲食店・物販店を経営する会社です。うどんの経験があるとはいえ、非鉄道事業を本格的に経営するノウハウは、当時の私にはなく、中途で経験者を採用したり、社内の関係者に協力を仰いで、何とか陣容を整えました。
その後、いったん非鉄道事業を離れ運輸部長を経験した後、2022年に再び戻り、事業開発本部長として非鉄道事業を主導する立場を任されています。


佐々木
JR四国の非鉄道事業として、今後はどんな将来像を描いてらっしゃるのですか?
平田
やはり、自分たちで考えてつくっていける組織にしたいですね。鉄道と非鉄道は、会社の両輪だと思っています。JR四国には公共交通という大きな役割がありますが、そこに寄り掛かるのではなく、早く鉄道と並ぶ事業として独り立ちしないといけないと考えています。
佐々木
非鉄道事業が自立する上で、何が課題だと感じますか?
平田
まず、事業に関わる個々人がその道のプロとなる、そのためのスキルアップが不可欠です。メンバーにはみんな、主役になってほしいんですよね。言われたことをやるだけではなく、主体的に事業を動かしていってほしいので、そうした声がけを積極的に行っています。
最近はよく「◯◯作戦」と名付けて動かしています。“お客様が好きになってくれるまで離さない作戦”とか、“お客様に「2度と来ない」なんて言わせない作戦”とか(笑)。高松オルネが開業し、四国初上陸の寿司居酒屋「杉玉」、そして「コメダ珈琲店」なども新たに入ってくれて、多くのお客様に来てもらっています。もちろん作戦名を付けたからと言って万事うまくいくわけではないですが、メンバーの気持ちに火をつけて回るのも私の役目だと認識しています。
武市
非鉄道事業の風土の変化は感じますか?
平田
まだまだ動いている最中なので実感はこれからですが、人数は大きく増えています。2017年に事業開発本部を作った時は20数名だったのですが、今は60名以上。不動産や駅ビル、ホテル、新規事業など、チームに分かれて事業を進めることができるようになっています。
ここ数年で、不動産や駅ビル開発の経験者など、ノウハウを持つ人に来てもらっています。当然ながら、経験のある中途社員とプロパーの若手社員では、ペースが違います。40歳前後で転職してきたり他業種から出向で来てもらっている人々は、早く成果を出そうとスピード感を持って仕事を進めます。このスピードを体感することが、若手がプロになり、自ら主役となって動く上での良い刺激になるでしょう。
ただ、人数が増えチームを分けて事にあたれるようになると、横の連携が疎かになりがちです。あるチームの持つ情報に、別のチームが気づかないこともある。各事業・各チームを横から串刺しにして、うまく連携できるような仕組みを作ることが、部門長である私の今の課題です。

陸上養殖、古民家再生…多彩なプロジェクトがスタート


武市
高松オルネもさることながら、面白そうなプロジェクトもどんどん立ち上がっていますね。
平田
熊本にある会社の協力を得てサーモンの陸上養殖にチャレンジすることになりました。これは私たちだけの力だけでなく、地域でがんばっているプロと力を合わせることでスタートできた事業です。
陸上養殖は、JR四国にとって初の一次産業の事業です。これをスタートしたことで、四国で一次産業を営む方々から多大な反響をいただきました。「JR四国が協業してくれるのなら、ぜひ一緒にやってみたい」とか「一度話を聞いてほしい」とか。何もかも手当たり次第、というわけにはいきませんが、四国のために力を合わせていきたいですね。
それと、四国地域に数多く残る空家・古民家を再活用する、簡易宿所「4S STAY」も始まりました。長期滞在も可能で、昔の風情を残した空間はインバウンドの方々からも人気です。現在、徳島に3ヶ所設置され、香川にも新設します。プレスリリースの際、社長に「四国のあちこちに広げたいので、空家・古民家を持つ人はいろいろ情報をください」と風呂敷を広げてもらったら、四国のいろんな所や離島などからも連絡がありまして。思いもよらない反響に、一歩踏み出してみる大切さを実感しています。
佐々木
4S STAYはどんなきっかけで始まったのですか?
平田
実は、私が事業開発を受け持つ事になった時、簡易宿所は止めたらどうか、と言ったんです。コロナ禍の最中で、全く数字が上がっていませんでしたから。しかし、担当の女性スタッフの熱量に押され、どう後始末しようかな、と思案しているうちに、インバウンドで活況を呈するようになって。彼女には顔を合わせる度、いまだに謝っています(笑)。
四之宮
簡易宿所の事業に火が付いたのは、専属の担当者を置いてからです。その前は専属者がいなくて、言われたので仕方なく…という感じだったんです。しかし専属で見るようになると、担当者の意欲が変わってきまして。宿泊レートも自分たちで責任を持って決めて、きちんと収益を出せるようになったんです。


平田
最初のうちは私が口を出すことも多かったのですが、もう任せるとなってから、担当者は本当に楽しそうで。プレスリリースの前、四之宮社長のところに自分でリリース用の資料を持参して「ここを言って下さい、ここを強調してください」と熱く語っていました。「社長に思いの丈を全部話すことができました」と、本人は大喜びでしたよ。
四之宮
我々の若い頃は、社長に直接アピールする機会なんて滅多になかったと記憶しています。あったとしても、萎縮して自分の思いを話せたかどうか。今のメンバーは物怖じもせず、本当に頼もしいですね。
ちなみに事業プランについては稟議が回ってきた時に確認したのですが、プレスリリース用の資料を見ると宿泊施設の名前がSetolive by 4S STAYと変わっていて驚きました。社内会議の時は、もっと固い名前だったはずなんです。「あれっ、聞いていた話と違うな・・・」と思ったのですが、こっちの名前の方が柔らかくてかっこいいし、じゃあこのまま発表しようとなりました。
平田
年次の浅いうちから社長と堂々と渡り合って、事業を動かす、というのはとんでもなく貴重な経験だと思います。もちろん、それをできるスタッフ自体の資質がすごいのですが。それだけ、社長や経営陣、事業責任者と一般社員の距離が近づいた、ということかもしれません。
四之宮
実は、若い社員と幹部層の関わりを増やそうと、定期的に交流の場を設けてるんです。最初の30分は真面目な話をして、後は缶ビールとおつまみで。部門が違うと、話したこともない社員もいますから。すると社員同士も、「お互い本社だけど、話すのは初めてですね」なんて盛り上がっています。
平田
そこに、私も近々参加させてもらうつもりです。事業開発本部のメンバーが既に経験していて、すごく面白かったと言っていたので。そういうことができるのは、本当に良い会社だな、と感じます。
加地
上下の距離が近くなり、互いに話しやすくなった、自分のやりたいことを主張できるようになったというのは、やはりJR四国の風土が確実に変化してきているのでしょうね。
平田
土壌は昔からあったと思います。ただあまり顕在化していなかったと言うか。鉄道事業に関しては、安全が第一なので、言われた通りに過不足なくやることも重要ですから。仕事のやり方としては受け身だけど、それで達成感は十分にありました。
しかし、振り返って考えた時に、一番充実感を味わえるのは、やはり自分が主役になって動かしていた時だな、と感じます。そのことを若い社員にはなるべく早く知ってほしいし、主役になった時の醍醐味を感じてほしい。特に非鉄道事業を受け持つようになってからは、積極的にそう発信しています。

四国の課題解決のため、アイデアを活かしてほしい


佐々木
四国へのUIターンを志向しながら、やりがいの持てる仕事があるかどうかわからず、動き出せない人たちも大勢います。そういう人たちに対し、四国ならではの働く価値について、メッセージをお願いします。
平田
東京や大阪では当たり前に導入されているサービスや施設も、四国では初めて、というケースがたくさんあります。「こういうことが四国でできる」という発想を活かせる余地が大きいわけです。そういう環境を活かし、プロとしての経験やスキルを、ぜひ発揮してほしいですね。今はJR四国で実施していない事業でも、こういうプロが来てくれるなら取り組んでみよう…という具合に、その人ありきで始まる新規ビジネスがあってもいいと思っています。
加地
「JR四国」と聞くと、どうしてもインフラ系企業というイメージが先に立ちます。鉄道事業において安全性や確実性、慎重さが重視されるのは当然だと思いますが、それ以外の資質・能力を発揮できるステージがあるのだ、ということは、UIターン志向者にぜひ知っていただきたいですね。
四之宮
そのイメージはあるでしょうね。インフラ系企業は「本業以外の新規ビジネスに取り組みます」と言いながら、実際は本業の割合がかなり大きいというケースが珍しくありません。でも当社は、本気度が違う。鉄道だけ盛り上がればいいや、なんて思ってはいません。ホテル、駅ビル・不動産、飲食・物販、あるいはそれ以外の新規ビジネスなど、JR四国のリソースを使ってできる様々な可能性にチャレンジし、四国の社会課題と向き合っていきたいと考えています。四国のまちづくりにまで関わってこそ、鉄道にも還元されるものがあるのです。


平田
四之宮社長になってから、決裁のスピードもぐんと上がりました。「これをやりたい」と社員が訴えたら、拒否されることも少なくなった。「責任は上司が取る。あなたに任せるからやってみろ」と、チャレンジを歓迎する雰囲気も生まれています。
こういうことを実現したい、四国でこういうことをやれば、もっと活性化に貢献できるはず、というアイデアがあるなら、ぜひ聞かせてほしいですね。私が時間を作ってでもお会いしますよ。
四之宮
もちろんビジネスなので、収支を度外視した荒唐無稽なサービスを始めるわけにはいきません。かと言って、儲け第一、でもありません。どういう形式にしろJR四国が関わる以上、軸になるのは「四国地域の活性化につながるか」「四国の社会課題を解決できるか」ということです。
今回、社長就任にあたり、私は「運命共同体である四国の未来を作りたい」というメッセージを発しました。敢えて「運命共同体」という言葉を入れたのは、地域が発展せずにJR四国だけが発展することはあり得ないからです。
平田
JR四国って「変わってる」会社なんです。鉄道・非鉄道の部門がまず違う。職種も関わる人々も当然違う。各部門の中でも、営業系・技術系・企画系など、いろんな仕事がある。配属が変わると、社内で転職するようなものです。そんな中でそれぞれの世界にネットワークができ、全く気づいていてなかった自分の新たなポテンシャルに目覚めることもあります。自分の可能性を引き出してくれる、という意味でも、面白い会社だなと思います。
佐々木
お二人の言葉の端々から「四国のために変えていくんだ」という熱意が伝わり、とても心強く感じました。本日はどうもありがとうございました。


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四之宮 和幸

四国旅客鉄道(株) 代表取締役社長

1989年、京都大学大学院(交通土木工学専攻)修了。同年4月より四国旅客鉄道(株)に入社。高架工事、橋梁・トンネル検査といった土木部門を担当する。2001年には関連企業の徳島ターミナルビル(株)に出向し、ホテル・駅ビル運営などを経験。2004年に復帰後は、管理職として様々な部門を歴任。2017年に取締役、2020年に常務取締役総合企画本部長、2022年に代表取締役専務総合企画本部長を歴任。2024年に代表取締役社長に就任。愛媛県西条市出身。

平田 成正

四国旅客鉄道(株) 常務取締役(事業開発本部長)

1989年に徳島大学大学院(機械工学専攻)修了。同年4月より四国旅客鉄道(株)に入社。運輸、営業、企画、財務など様々な部門を経験する。2002年、非鉄道部門である(株)めりけんやに出向。7年間在籍し、東京・大阪などでの出店を手掛ける。その後総合企画本部にいったん戻り、2014年に(株)ステーションクリエイト東四国(現在のJR四国ステーション開発(株))に出向。代表取締役社長として不動産管理や飲食・物販業務に取り組む。2016年に鉄道部門の運輸部長に就任。2022年、常務取締役に就任。事業開発本部長として、非鉄道部門の事業全体の指揮を執る。

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