GROUP DISCUSSION2025.2.26

地元で働くことこそが、究極のSDGs。ー(株)北四国グラビア印刷・奥田氏、森本氏ー

GROUP DISCUSSION2025.2.26

地元で働くことこそが、究極のSDGs。ー(株)北四国グラビア印刷・奥田氏、森本氏ー

農産・水産加工品、冷凍食品など食品を中心に、各種商品のパッケージ印刷を手掛ける(株)北四国グラビア印刷。企画・デザインから製版・印刷・納品までトータルで対応できる一貫生産体制を強みに、首都圏・東海・関西など全国の大手食品・衛生用品・医薬品メーカーの依頼に応えています。2026年には新工場も新設予定であり、堅実な発展を遂げています。そんな同社で、代表取締役社長として経営の舵を取る奥田拓己氏と、製品開発と人材採用・教育の2つのミッションを担う開発部長・森本未沙氏に、四国ならではの働く価値についてお聞きしました。

いろんな役割を果たす機会がある


森本さんが北四国グラビア印刷に入社したのはいつですか。
森本
2003年です。当社が大卒社員の定期採用を始めたばかりの頃で、私はその第一期生の新卒入社組になります。


奥田
当時、北四国グラビア印刷は大きな変革期にありました。1970年、一台の印刷機を抱えて創業し、大手印刷会社の下請けとして長く食品パッケージ印刷に携わってきたのですが、1992年の工場新設を機に方針を転換。下請けから脱却し、食品メーカーなどとの直接取引を行う元請けとして実績を築いてきました。
2000年、もう一段の飛躍を目指し、製版工程の内製化に着手。売上20億円の会社が数億円を投じて一貫生産体制を構築しようというのだから、大きな決断でした。並行して、経営理念を明確化し、経営計画を定め、人事制度・評価制度を整える、といった社内環境の整備も行いました。工場を新設して約10年は実績作りのため走り続けて来ましたが、従業員とお客さまと社会の幸せに貢献する、という姿勢を示していかないと、持続成長できる会社はならない、と感じていましたから。新卒の定期採用も、会社の長期的な未来を見据えた上での活動の一環です。
森本
私は理系卒ですので、最初は品質管理に配属となりました。後に、品質保証へ異動。その時代に結婚、出産を経験、産休のため業務を離れました。復帰後はもとの品証に戻りましたが、やがて開発部門に移動し、管理職を任され、現在に至ります。
20年以上この会社でキャリアを積んでこられた森本さんの目に、北四国グラビア印刷という会社はどう映っているのでしょう。
森本
自分の業務はもちろんですが、それだけでなく会社の中でいろんな役割を果たす機会があるので、自分の強みを発揮できたり、やりがいや達成感を味わう場の多い会社だと思います。
代表例が、委員会活動です。これは業務とは別に、部門横断型で社内の諸問題の解決に取り組む活動のことです。各事業部の5人の部長が集まって8つの委員会の委員長を決めます。委員長は、自分の委員会に入ってほしいメンバーを、プロ野球のドラフト会議みたいな感じで各部から選出していきます。そしてそれぞれ独自に各委員会のテーマに沿って議論し、具体的な活動を進めていくのです。わかりやすいところで言うと、レクリエーション委員会や5S(5つの観点から職場環境を改善する手法)委員会、QC(Quality Control:品質管理)委員会といったものがあり、これらは委員会活動がスタートした2005年の当初から存在しています。
奥田
今年のレクリエーション委員会は、中途入社2年目の従業員が委員長を担当しています。彼女が入社1年目、2年目の従業員をメンバーに選び、社員旅行について検討。先日、北海道に行きたいとプレゼンがありました。どういうものが食べたいか、どういう体験をすると従業員のリフレッシュになるか、と論理立てて考えてあり、「どうせレクリエーションだから…」といった手抜きは一切感じられません。そこまで考え抜いた計画なら、北海道にしよう、と私も気持ちよくOKを出すことができました。
テーマは何で、実施に向けてどんなことが必要で、期待される成果は何で…と考え、しかも経営陣の前でプレゼンするのですから、委員会活動は実に良いビジネストレーニングの機会になっている、と実感します。


森本
私も委員会活動は、従業員の教育の場と捉えています。取り組んでいるテーマも5SだったりQCだったり、品質や効率、サービスを上げるのに貢献するものが多いので、いい仕事をするための土台作り、と考える従業員が増えています。だから通常業務と別の活動にも関わらず、みんな前向きに参加してくれるのです。

コミュニケーションのとれる風土


加地
委員会といった類の活動を行う会社は他にもありますが、うまく機能している事例は多くありません。そんな中、北四国グラビア印刷で20年近くも継続し、従業員の積極的な参加を得られている要因は、どこにあるとお考えですか。
森本
シンプルですが、「やり続けているから」ではないでしょうか。
16~17年前、私が品質管理から品質保証に移動したばかりの、入社3~4年目の頃です。品証はまだできたばかりの部署で、決まった仕事がなく、自分から仕事を探さなければなりませんでした。そこに、社長から「5S」に取り組んでみよう、と話があったのです。当時の私は、5Sのことなどさっぱりわかりません。コンサルタントの指導を受け、委員会活動として見様見真似で始めてみました。
でも、5Sが浸透していない当時の社内に、賛同者はいません。委員会として巡回し、ここをこうしてみようと5Sの提案を行うのですが、すごい反発を受けて。委員会に参加しませんか?と誘っても、仕事以外になんでそんな活動をしないといけないのか、と取り付く島もありません。同じタイミングでQCの委員会も始まりましたが、同様でした。
それでも何とかやっていると、ある一つのグループで大きな成果が出たんです。今までは職人の経験や勘を頼りに進めていた業務を、データを分析して課題を見つけ出し、改善に取り組んだところ、年間1000万円ものロス削減につながりました。
入社3~4年目の若手にとって、それは大きな成果ですね。
森本
成果を目にすると、社内の反応が変わってきます。活動が活発化していろんな成果が出るようになり、ここまで継続できました。最初、しんどい時期はあったものの、そこで諦めなかったのが良かったですね。
ちなみにどの委員会活動も、数値的な目標をきちんと設定しています。ゴールを明示しないと、トレーニングになりませんから。また、前年と同じテーマに取り組む場合でも、「前例踏襲」ではなく、必ず新たな視点を加えるようにしています。例え何らかの失敗があったとしても、問題ではありません。重要なのは現状をさらによくしようとチャレンジする姿勢で、それはみんなの中にもう定着しています。
加地
それほど委員会活動が活発だと、事業に対しても従業員からどんどん意見が出るような、ボトムアップ型の組織になっている、という効果もあるのではないですか。


森本
社長が、いろんなことを私たちに任せるようになった、という実感はあります。
社長は普段、社長室に閉じこもっていることはほとんどなくて、大体同じフロアの隣の席に座っていたりします。だから、折に触れて社長の考えを汲み取れるし、これをやりたいとなったら、すぐに社長に意見を持っていくことも出来ます。よほどおかしなものでない限り、社長は「やったらいいやん」と言ってくれますし。
奥田
北四国グラビア印刷では、昔からみんなの顔の見えるところで働くのが当たり前でしたから。普段から仕事についていろんな話をしておけば、私がいなくても従業員は参考にしてくれるかもしれません。何かトラブルがあっても、そばにいたらいち早く気づけます。気軽にコミュニケーションを取れる風土でありたい、とはいつも考えています。
森本
社長・管理職層と従業員の「縦の関係」もそうですが、部門間の「横の関係」においても、当社はコミュニケーションがとれていると思います。印刷業界では営業と製造の関係性が今ひとつ…といった話をよく聞きますが、当社にはそういった変な壁がありません。これも、委員会活動の効果の一つです。委員会は全部門から人が参加するので、別の職種の人と顔を合わせる良い機会となっています。委員会を通じて得たつながりが、本来業務の方にも役立っているわけです。

採用・教育と、仕事の現場をつなげたい


森本さんは開発部長として開発に携わる一方、人材採用・教育もミッションとして持っている、とお聞きしています。開発と人材の両方を手掛けるのは大変ではないですか。
森本
「開発と採用・教育の両方をやらせてほしい」と申し出たのは、私の方なんです。
品証にいた当時、トラブルの原因を究明し、再発を防止するには、従業員に対する不断の教育が欠かせない、と感じていました。QCでも同じようなことがありました。現場を良くしようと思うと、人材教育は切り離せません。
私が開発部に異動した頃、新入社員の採用は総務が行っていました。しかし、現場を知る者が採用に携わると、採用・教育と現場での仕事に一貫性が出るのではないかと考え、採用・教育もやらせてもらうことになったのです。


奥田
開発部門は、3年前に立ち上げた部署です。R&Dの必要性はずっと感じていて、森本さんに担ってもらうことになったのですが、「人材採用にも携わりたい」と聞いた時は、驚きましたね。しかし本人にやる気があり、意義も感じているのだから、任せた方が良いと決断しました。
森本
品証時代も「お客さまからクレームがあったから対処する」というような対症療法的な動きがあまり好きでなく、営業と一緒にお客さまを訪ね「こういうやり方があります」「こうすれば品質の改善につながります」という提案を行っていました。ボトルネックになっている設備に気づいたら、「こんな風に改善してもいいですか?」とお客さまに言ってみたり。そうするうち、「こういうことはできないの?」とお客さまから要望を受けることも増えてきて。
そんな風に、自分の仕事を「ここからここまで」と限定せずに動くのが、性に合っているのだと思います。
加地
森本さんのようにマルチタスクを実践できたり、委員会活動に積極的に取り組める風土が、自己成長を促しているのかもしれませんね。
森本
やる気があって前向きなら、いろんなことにチャレンジできると思います。委員長に選ばれ、課題をこなすと、次は管理職に昇進というケースも多いですし。機会は多いので、様々な経験を自分の糧にしてほしいですね。

観音寺・三豊で満ち足りた人生が実現する


四国ならではの働く価値について、お二人はどのようにお考えですか。
奥田
私は、生まれ育った地元で、家の近くにある会社に行って働くのが、究極のSDGsではないか、と思うんです。
昔から味わってきた山海の産物を味わいながら、落ち着いた暮らしができる。少し足を伸ばすと、父母ヶ浜や天空の鳥居といった心安らぐ景色が広がる。ちょっと家庭農園で植物を育てようかなと思ったら、すぐ実践できる。そんな観音寺・三豊地域での生活を私は愛しているし、満ち足りていると感じます。
森本
当社では、従業員の紹介によって知人が入社する「リファラル採用」の事例がとても多いんです。夫婦で勤めてくれているケースもあるし、お子さんが入社する場合もあります。実は私の夫も、友人に誘われて入社したリファラル組です。
もちろん、会社がお願いしているわけではありません。従業員のみなさんが、自然発生的に知人・友人・ご家族に声をかけてくれるのです。それは恐らく、北四国グラビア印刷に居心地の良さや働きがいを感じてくれているからではないでしょうか。
奥田
当社の事業エリアは全国に広がっていますが、創業時に名付けた「北四国グラビア印刷」という地域名を含んだ社名を、今でも大切に使っています。それだけ北四国エリアには愛着があるし、北四国から全国に展開していることに誇りを持っているのです。
観音寺・三豊に来たら、居心地が良くて成長の機会も多い、誇りの持てる会社がある。ぜひそのことを思い返していただきたいですね。


加地
従業員のみなさんが本当に居心地良く、意欲の持てる環境で頑張っておられるのだな、と実感でき、私たちも力をいただけたように思います。
今日はお忙しいところ、ありがとうございました。

奥田 拓己

(株)北四国グラビア印刷 代表取締役社長

1988年、立命館大学を卒業し、東洋インキ製造(株)に入社。1990年、地元にUターンし、父の経営する(株)北四国グラビア印刷に入社。大手印刷会社の下請けから、顧客との直接取引を行う会社への脱皮を図っていた頃で、先頭に立って営業活動を行う。2003年には専務として、懸案であった製版工程の内製化を実施。企画から製版・印刷・納品までの一貫生産体制を確立する。2006年、代表取締役社長に就任。

森本 未沙

(株)北四国グラビア印刷 開発部長

2003年入社。最初の配属は品質管理。後に品質保証に異動。その頃スタートした委員会活動で5Sに取り組み、社内からの反発はあったものの、一定の成果を出す。成果が出てからは周囲の見方も変わり、委員会活動が軌道に乗る。2017年品質保証の部長に就任。2018年~2019年産休、育休を取得し、2019年品質保証で復帰。2021年新設された開発部に異動し、部長に就任。自ら申し出て、人材採用も責任者として手掛けるようになる。

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