GROUP DISCUSSION2024.8.28

ボトムアップの風土が、チャレンジを生む。ー(株)マキタ・落合氏、高山氏、中西氏ー

GROUP DISCUSSION2024.8.28

ボトムアップの風土が、チャレンジを生む。ー(株)マキタ・落合氏、高山氏、中西氏ー

1910年に創業、100年以上にわたって船舶用エンジンの設計・製造を手がけている(株)マキタ。(株)三井E&S社と技術提携、さらにドイツのMAN Energy Solutions社とライセンス契約を締結しており、シリンダ径300~460mmの小口径2ストロークエンジンの分野では世界トップのシェアを誇ります。2016年に槙田裕氏が社長に就任してから、同社は変革をさらに推進してきました。そんなマキタで幹部社員として事業を支えるのが、設計部門の落合真氏、情報システム部門の高山百合子氏、アフターサービス部門の中西智彦氏です。今回は御三方に、マキタの変革や未来、そして四国ならではの働く価値についてお聞きしました。

※配属部門や役職は取材時点のものとなります。
※インタビュアー:株式会社リージェント 加地盛泰/四ノ宮こころ

新社長から“どんどん意見を言っちゃってください”と


四ノ宮
現在の槙田裕社長がトップに就任したのは2016年。当時、社員数320名だったマキタ社は今400名と、人員の面だけを見ても拡大しています。社長交代以降の数年で、会社はどのように変わったと感じますか?
中西
以前から定期的に人を採用するようになり、風土変革の下地は徐々にできていました。そして社長交代というタイミングを迎え、それまで以上に新しい人を迎えるようになり、会社がどんどんボトムアップ型になった、と思います。


高山
最も象徴的なのが、長期ビジョンと、そこに至るまでの中期経営計画の策定です。従来はトップの決めた方針を受け取るだけだったのですが、社長の意向もあり、数年前に初めて部長以上の現場幹部で議論しながら作りました。活動は手探りで、今までそんなことに携わった経験がなかったメンバーも多く、皆で四苦八苦しながらフォーマットを埋めていく感じでした。
落合
ずっとマキタでやってきているプロパーと中途入社者では視野が違うので、意見の衝突も頻繁に起こりました。苦労はしましたが、自分たちが方針を決めるようになったのは大きいですね。中期経営計画に対する責任感が全然違います。
高山
こうしたらどうか、という提案が通りやすくなったとも感じます。以前が通らなかったわけではないのですが、管理職の交代が進んだこともあり、明らかにスピードが早くなりました。社長が近くにいてすぐ相談できますし、「前例主義じゃなくて、良いと思うならまずやってみよう」と言ってくれるので、思い切って提言できます。


中西
中途入社者が、ここ数年で急激に増えたことも影響しているのかもしれません。私も中途入社組ですが、「それはメーカーとしておかしい、こうした方が良い」と遠慮なく言わせてもらいました。社長も意識して、私のように遠慮なくモノを言うタイプを採用されたのだと思います。彼らの価値観や行動が、風土を変える要因の一つとなったのは間違いないでしょう。
落合
今は管理職の半分以上が中途ですから、意見も言いやすかったと思います。何より社長自身、マキタに来る前に別の会社を経験していますから。いわゆる“よそ者”の意見の重要性を理解してくれていると感じます。
高山
私は管理職に登用された時、社長に「どんどん意見を言っちゃってください」と言われました。おそらく、現社長に登用された者は、皆同じメッセージを受けていると思います。

次世代エンジン、ITの積極活用、世界を網羅するアフターサービス


加地
社内の風土が変わり、新たな時代に向かって歩む準備は整ったと思います。マキタの未来を見据えた時、取り組むべき課題は何だとお考えですか?
落合
設計部門においては“次世代型エンジン”への対応です。2~3年後には世に出ることを考えれば設計は今から動き出さないとだめでしょう。次世代型エンジンはカーボンニュートラル、ゼロエミッションといった環境規制への対応が前提で、燃料に重油以外のメタノール、更に水素やアンモニアなどの代替燃料の使用が想定されています。
私たちが設計するのはライセンスエンジンなのでR&Dは基本的にライセンサーで行います。しかし「ライセンサーの言う通りでいい」と楽観視していては、おそらくうまくいきません。こちらから積極的に情報収集し、場合によっては共同開発をしようといった提案も必要になると思います。
そのため、トライ&エラーを重ねながらあきらめることなく取り組む姿勢を持ったエンジニアが求められる、ということです。機械系だけでなく電気・電子・制御・材料・化学・バイオなどの分野に強い人材も必要になるでしょうね。


四ノ宮
アフターサービス部門はいかがでしょう。
中西
現在、アフターサービスのみで売上高は30億円以上。中期経営計画では、2030年で40億円の目標を立てているので、さらに加速させなければなりません。そのためには、事業形態を変える必要もあると思っています。船舶業界におけるアフターサービスの領域では、情報通信技術の重要性が高まっています。船の運航や運用状況を全て陸側でコントロールし、船体や装備の疲労度を把握した上でメンテナンスのタイミングを適切に発信する、いわゆるCBM(Condition Based Maintenance)に変化しているわけです。
こうなると、世界中を航行する対象船に対して、高松一拠点からアフターサービスを全てコントロールするのは、無理が出てきます。海外のサービス拠点を拡充し、それぞれの拠点からアフターの情報をタイムリーに発信していかないといけないでしょう。となると、現地での拠点設置や人材確保を考えないといけません。そうした体制が整えば、アフターサービスだけで60億円という世界も見えてくると思います。
現在、アフターサービスの売上は、主に補修部品の販売などによって成り立っています。しかし今後は、部品などハードの単体売りだけではなく、技術をベースとしたソフトの比率を高め、パッケージとして提供するという形に切り替えていかなければなりません。そうすることで、アフターサービスの付加価値が高まるのです。こうした形にするためにも、お客様と近い場所に拠点を設けることが重要だと考えています。
四ノ宮
情報システム部門はどんな未来を見据えていますか?
高山
船舶業界のDXが進むことで、IT部門の重要性がより高まっています。IT部門は今までも、「これはマキタに適用できるのではないか」と感じたら、新たな技術やサービスを積極的に導入するようにしてきました。先回りして備えているおかげで、どこかの業務で課題が発覚しても、素早く対処できます。このやり方は今後も続けていくつもりです。
これまでは縁の下の力持ち的な存在であったIT部門が、様々な形でお客様の前に登場するケースが増えています。例えば、昨年お客様側でエンジンの稼働状況や資料を確認できる会員用サービスがリリースされたのですが、このプロジェクトにはIT部門のメンバーも積極的に開発に関与しました。その他、今や船舶の電子化によりIT知識が必要な場面も多く、IT部門メンバーがエンジン部品のプロジェクトに参加することもあれば、アフターサービス部門の打合せに顔を出すことも当たり前になりつつあります。こうしたケースは、さらに増加するでしょう。
企業のIT活用事例として、社外カンファレンスで当社の成果を発表する機会も増えました。おかげさまで少し知名度が上がり、社外の方や学生さんから「見ましたよ!」と言われることも増えています。そういうことをきっかけに、当社のITに対する取り組みを知ってもらえば、優秀な人材の確保にもつながるのでは、と期待しています。


中西
アフターサービスではITの利用が不可欠になっています。サービス拡充を考えるなら、IT部門のメンバーに入ってもらう必要がある、というのは確かですね。

変革を加速し、さらに進化する


四ノ宮
私たちは四国に興味を持ってくれる人を増やすため「四国ならではの働く価値」を発信しています。みなさんは「四国ならでは」あるいは「マキタならでは」の働く価値についてどのようにお考えでしょうか。
落合
私がマキタに入社した理由は、船舶エンジンを作っているからです。他に、大手じゃないので設計の全体に関われるといったこともありますが、一番は「動くものを作りたい」という純粋なワクワク感です。複雑な機構を的確に制御し、求める動力を得るエンジンは、機械系出身のエンジニアにとって特別の存在です。しかも船舶用となると、どこでも体験できる仕事ではありません。
高松という地方都市で、船舶用エンジンの設計・製造に関われる。その事実だけで、魅力に感じるエンジニアはいると思います。実際、当社の中途採用のエンジニアは、四国とゆかりのない者もいます。なぜ香川に来たか聞くと、「船のエンジンを作ってみたいから」と答えていました。
高山
マキタならではという部分では、IT業界経験者に対しては、IT環境の充実という点もアピールポイントになる気がします。応募してくれた人や他社の方に当社のシステム構成を見てもらうと、「地方企業が入れているとは思えない組み合わせや種類が入っていますね」と驚かれます。
私たちとしては、自社の業務に必要なものを探して導入しているだけで、特別なことをしている意識はありません。当社では海外出身の技術者や、県外フルリモート勤務者もいます。そのため、様々な環境での業務を想定したシステムやセキュリティーを選んでいます。その結果、有用性の高いシステムが揃い、地方企業らしからぬIT環境が整った、というだけのことです。
進んでいる大企業並みのシステムを中小企業ならではの自由度で自ら経験できるのは、ITエンジニアにとって大きな魅力でしょう。技術者として知識が習得できますし、これまで試せなかったことにもチャレンジできると思います。
落合
設計部門でも、ベトナムでフルリモートの在宅勤務をしているメンバーがいます。IT環境が整っているからできることですが、ものづくりの会社でこれほど自由に設計ができる会社は少ないのではないでしょうか。


高山
今後は海外人材の登用も増えて、アフターサービス部門を中心とした海外展開も活発化するでしょう。様々な場面での言語対応を想定して、翻訳機や生成AIの導入を早速、検証しています。
事業がどう変わろうと、ITのおかげで柔軟な対応ができる。時にはITが事業を引っ張る。マキタのIT部門はそんな存在でありたいと思います。
中西
地方の中小企業にとって、新卒人材の確保が難しくなるのは分かりきっているので、今まで以上に、海外人材や中途人材の活用が重要になると思います。そのためにはフルリモート環境が必要だし、言語やコミュニケーションの壁を乗り越えないといけない。しかしその点は、IT部門がしっかりサポートしてくれるので、問題視していません。
特にアフターサービス部門では、海外ビジネスが活発化します。海外拠点を設け、海外のワーカーをマネジメントすることもどんどん増えていくでしょう。意欲のある人にとってチャンスは大きい、と言えるのではないでしょうか。四国にいながらでも、世界に価値を発信し、海外の最前線で活躍できる。それがマキタで働く一番の意義かもしれません。大手電機メーカーで海外事業に携わっていた私がUターン転職を決断できたのも、まさに、そんな働き方ができるマキタが香川にあったからです。


加地
変革し続ける会社にはチャレンジの機会が豊富にある。積極的なチャレンジで自ら事業を進化させることができる。みなさんのそんなやりがいを実感できました。
本日はどうもありがとうございました。

落合 真

(株)マキタ 設計部長

香川県出身。大卒後、(株)マキタに入社。設計部にてライセンスエンジンの図面作成に従事。入社3年目に(株)三井E&S設計部に出向し、お客様との仕様決定や社内製作指示などのプロセス管理業務を10年担当。大手造船所や大型外航船のエンジンを担当する。マキタに帰任後も中小型船用エンジンを担当。設計管理職を経たのちに3年弱の経営企画職を経験し2021年より設計部長に就任。2021年香川大学大学院MBA取得。キャリアコンサルタント資格保有。

高山 百合子

(株)マキタ 執行役員 情報企画部長

京都府出身。大卒後、高知の不動産関連会社に入社、調査事務に従事するも2年目で転職。2社目の不動産会社では宅建を取得し、営業事務に従事。結婚前に一度京都の実家に戻り、約半年間の派遣事務を経験。2005年結婚のため香川へ移住、すぐに就職活動を始め2か月後に(株)マキタへ入社。設計部門の一般事務員としての採用だったが、業務改善を行う過程で徐々にIT知識が付き、2011年ほぼ直訴の形で一人目情シス(総務兼務)となる。2018年情報システム部門が誕生し管理職となる。2021年情報企画部長、2023年執行役員に就任。ITコーディネータ(ITCかがわ所属)。

中西 智彦

(株)マキタ 執行役員 アフターサービス本部長

香川県出身。米国の州立大学を卒業後、大手電機メーカーにシステムエンジニアとして入社。公官庁や自治体向け業務コンサルタントを担当した後、20代半ばで産業プラントの海外営業職に転向。日系企業の半導体工場や液晶工場の建設プロジェクトに従事する中で、海外生活が多くなり、私事都合も重なり実家のある高松にUターンを決意。リージェントからのオファーを受け、2018年に株式会社マキタに中途入社。アフターサービス事業を担当し、2023年に執行役員に就任。

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