本セミナーのアジェンダ
◆【section01】:採用市場で起きている変化と働き方の多様化
section01では、都市部と地方の労働環境の差が大きく広がってきている現実についてお伝えいたしました。
① 四国エリアの人口は年々減少しており、採用が楽になることはない
✓ 四国は全国よりも25年早く人口減少が始まっている全国に先駆けての課題先進エリア。
✓ そうした人口減少の影響もあり、求人倍率は常に高い水準となっている。
✓ 四国本社企業へのアンケート結果からも、採用を維持・拡大するという企業の割合は増加傾向にある。
② UIターン人材の採用には、労働条件の整備が重要である
✓ 年功序列の給与制度ではなく、年齢に関わらず能力のある人には高額な提示をするという企業も年々増えてきている。
✓ 給与以外に重要視されるのが「休日数」。都心部では完全週休2日制で年間休日125日程度が標準となるが、四国の企業はまだ整備されていない会社も多い現状。
✓ 実際のデータを見ても年収より休日数の方が採用には大きな影響があり、休日数はUIターン転職を検討する上で、ゆずれない条件に入る可能性が高い。
③ テレワークの導入経験の差がもたらす影響に注意が必要
✓ コロナ禍によりテレワークが普及し、都内を中心に実施率が大きく伸びている。
✓ 一方で四国エリアの実施率は10%未満となっており、都会と地方で働き方や業務体制の経験値に大きな差が生まれている。
④ 新たな人材確保の手段として「ふるさと副業」という需要がある
✓ ワークシェアという考え方が広まる中、副業を解禁とする流れも強まっており、副業でふるさとに貢献したいという「ふるさと副業」に興味を向ける方が増えている。
✓ テレワーク勤務者を受け入れていくことは、都会からの人材獲得を目指す体制づくりを整えていくことにも繋がると考えられる。
◆【section02】:働き方改革が与える地方採用への影響
section02では、働き方改革(特にリモートワークの普及)によって、地方の採用市場にルールチェンジが起きつつあることを、サイボウズ社などの事例を踏まえてお伝えいたしました。
◇ リモートワークとライフスタイルの変化
✓ サイボウズではコロナ渦になり出社率が10%以下に激減。長く出社しない状態が続く中で東京から離れる社員も増加し、「地方に住みながら都内の企業で働く」という選択肢が広がっている。
✓ リモートワークはサイボウズなどのIT企業だけに広がっているわけではない。例えば地方に工場がある大手機械メーカーでは、常に出勤する必要がない事務系や設計の方など、全体の約7割近くが何らかの形でリモートワークを取り入れている。また、人と直接会うことに価値があると思われていた研修会社などでもリモートワークが進んでいる。
✓ リモートワークは今後も様々な業種、職種に波及していくと考えられる。
◇ リモートワークの普及が地方企業の採用に及ぼす影響
① 「転職しない」UIターン者が増える
✓ リモートワークの普及によって、地方に住むからといって必ずしもその土地で仕事を探す必要がない人が増えてきている。
✓ この方たちは従来UIターン転職の希望者だったが、今後はUIターンするものの、単に住む場所を変えるだけで仕事を変えるわけではなくなる。
✓ つまり、そもそもUIターン転職する人の数、パイが減るため、地方採用における競争が厳しくなっていくことが予想される。
② 地方在住者の「流出」が発生する
✓ 働き方にリモートワークを取り入れた首都圏の企業は、今度は採用においてもリモートワークを許容していき、地方の優秀なビジネスパーソンをリモートで雇用するケースが増加していくと想定される。
✓ 地方に住む人にとっては、これまで選択肢に入らなかった首都圏の大企業が転職先の候補として挙がり、優秀な方ほどその選択肢を魅力に感じると考えられる。
③ 首都圏企業の「待遇水準が波及」する
✓ 待遇についても常に大都市圏の企業と比較されることになる。
✓ 人手不足が加速する中、首都圏の企業が地方の人材に目を向けるのは間違いなく、高い給与や良い待遇を提示してくると考えられる。
◆【section03】:都会と地方の採用格差の解消に向けて
section03では、section01・02でお伝えした状況を踏まえた上で、今後どのような対策をしていくべきか、トークセッション形式でお伝えいたしました。以下、その内容をダイジェストでご紹介します。
- 佐々木
- ここからは、先ほど挙げていただいた「想定される3つの影響」の備えについて、トークセッション形式でお話ししていきたいと思います。林さん、よろしくお願いいたします。
- 林
- よろしくお願いいたします。
① 「転職しない」UIターン者が増える
- 佐々木
- まずは「①転職しないUIターン者が増える」についてですが、これは弊社でも実感があり、「現職でリモートワーク勤務になり、そのまま地元に帰ることが許可された」というケースも耳にするようになりました。今の会社を辞めたくないと思っている人にとっては追い風が吹いているような状況かと思いますが、サイボウズ社の中にも転職せずにUIターンされる方は増えてきているのでしょうか?
- 林
- 地元に帰りたい、ワークライフバランスを重視して仕事を充実させながら趣味にも時間を割きたいなど、様々なパターンがありますが、地方に移住した、もしくは今後しようとしている社員はとても増えてきていると思います。
- 佐々木
- なるほど。これまでUIターンするには転職をせざるを得ない状況でしたが、リモートワークの普及により今後はそれが通用しなくなってくるということですね。
一方で、地方でのリモートワークも可能ではあるけど、UIターンするならその土地に根差した企業に転職したいという要望を持つ方にも出会います。そうした方は、せっかくならその地域に貢献したい、ちゃんと顔をあわせて目的やビジョン達成に向かって働ける環境がいい、というような価値観をもっている場合が多いように思います。
その場合にも重要なことは、四国に転職したくなる魅力的な会社があることになりますが、「転職する」UIターンが増えていくにはどのような対策が必要でしょうか? - 林
- 今日の話にあったような待遇の整備はもちろん最低限必要だと思いますが、この会社で働きたいと思うのは、やはり将来像やビジョンへの共感が重要ではないでしょうか。サイボウズでは、自分の言葉でこの会社にいる理由や楽しさを語れる社員が多いように思います。会社の在り方や施策についても、積極的に議論できる場が用意されています。結果として会社の理想をすっきり腹落ちしている人が多い印象があります。そうすると、普段から社員が面接で良いなと思う候補者を口説いたり、共感を高めることができており、それが採用でも強みになっているのではないかと思います。
- 佐々木
- そのようなビジョンへの共感を生み出すためには、何をすればいいのでしょうか?
- 林
- シンプルに経営層が会社の方向性や理想をメッセージとして発信し続けることが最も重要だと思います。継続的にメッセージを発信することで、社員の共感を醸成し、社員全員のベクトルを揃えていけるかということが大事だと思いますし、ベクトルが揃っている会社のメッセージは転職を希望される方にとっても響くものになると思います。
- 佐々木
- ビジョンに向かって社内が一体になっているかどうか、ということですね。確かに地方でも採用がうまくいっているケースは、経営者のビジョンを語る力が強く、社員もそれに共感して言語化できていることが多い印象です。
では「①転職しないUIターン者が増える」の対策のまとめとしては、「UIターン=転職」ではなくなるため、「この会社で働きたい」という動機付けがどれだけできるかがポイントになるということですね。そして「この会社で働きたい」と思ってもらうためには、会社や事業のビジョンメッセージがはっきり言語化されていて、対外的な発信がされていることも大事であり、また、面接官となる方がどれだけ自分たちの言葉で自社のビジョンを語れるようになっているか、これが問われる状況になるということですね。
② 地方在住者の「流出」が発生する
- 佐々木
- 次に「②地方在住者の流出が発生する」についてですが、これはリモートワークのノウハウを手に入れた首都圏の企業が、地方にも採用の手を伸ばしてくるということかと思います。確かに、よくよく考えると脅威ですよね。転職者からすれば、地方にいながら都会の会社で働くことが可能になるので、今に満足できていない方が首都圏に流出する可能性は考えられますよね。
実際、地方に採用の手を伸ばしている企業は増えてきているのでしょうか? - 林
- 地方在住者の採用に取り組んでいる企業は増えていると思います。実際、サイボウズでは住む場所を問わない採用を始めています。例えば大企業での人事研修・広報の経験がある方が新潟にいまして、普段は農業をされているんですが、週2~3日程度サイボウズの研修やWEB媒体の記事化の業務をしていただいています。また、私が所属する部署でも、東京勤務は避けたいという方の内定を出したりしています。
こうした地方の人材を採用するケースは今はまだ少ない印象ですが、今後地方に住みながら首都圏の企業に勤める方が発信者やリクルーターになっていくと、加速度的に増えていくんじゃないかと考えています。 - 佐々木
- 確かに今は多くなくても、きっかけ次第で増えてくる可能性は十分ありそうですね。
先日お会いしたSEの方は香川にいながら東京の仕事ばかりやっているとおっしゃっていました。コロナになる前は、リモートで受託できる案件は少なかったようですが、コロナ禍になりリモートOKの案件が大幅に増えたことで、地方の仕事をするより東京の仕事を受けた方が技術レベルも磨かれ、かつ報酬も高いという話をされていて、大きな変化が起きている様子が伺えました。
こうした地方在住者の流出を止めるためには、どんな対策が考えられそうでしょうか? - 林
- まずは大前提として、社員が現在の仕事にやりがいや成長を感じられる環境を提供できるかが重要になるのではないかと思います。その環境が整っていないと、採用面、定着面の両方で苦戦することになります。
また、これは対策というより逆転の発想になりますが、section1のふるさと副業の話にもあったように、逆に首都圏の人材を地方で活用することが可能になってくるのではないかと考えています。首都圏で働いている方の通勤時間は平均で1.5時間、週で7.5時間と丸一日分の業務量に相当します。リモート勤務ができるようになれば、この通勤時間分がそのまま浮いてくるわけです。ここに着目して攻めに転じるという戦略も有効だと思います。 - 佐々木
- 確かに、すぐの移住はできないけれど、もしリモートで地元に貢献できる案件があれば紹介してほしいという依頼を受けることもあり、副業解禁とリモートワークの普及がこの流れを加速化させていくことも考えられます。
では「②地方在住者の流出が発生する」の対策については、守りと攻めの両面で考えていくことができそうですね。
守りとしては、社員のやりがいや成長感が醸成される環境となっているかをチェックしておくこと。いわゆるエンゲージメントのところですね。そのためには、社内でのビジョンの言語化や浸透に向けた動きは欠かせないポイントとなりそうですね。攻めとしては、ふるさと副業を希望するスペシャリストの採用ポジションを戦略的につくっていくこと。そのためには、リモートワークの活用など、どこにいても働ける環境づくりが重要となりそうですね。
③ 首都圏企業の「待遇水準が波及」する
- 佐々木
- 最後に「③首都圏企業の待遇水準が波及する」ですが、これは止められない流れになっていきそうですね。これまではエリア内の水準をベースに考えておけばよかったことが、ボーダレス化していき、これまでの待遇水準では勝負ができなくなっていく可能性がある。これは地方企業にとっては悩ましい問題だなと思います。ただ最近になって、地方でも一部の企業で給与提示の際に採用一時金や調整給を付けたりすることも増えてきました。また、年功序列の体制から脱却し、人事制度そのものを刷新する動きもみられるようになってきています。
ちなみにサイボウズ社の人事制度では、市場価値を考慮して給与を決めていると聞いたことがあるのですが、その制度について少しお話をお聞きしてもよろしいでしょうか? - 林
- そうですね、サイボウズでは給与査定に「今、この人が転職市場に出たらいくらの給与提示を受けられるか」という市場価値の概念を取り入れていますので、特に給与は固定されていません。それにより市場に合わせた給与提示が柔軟に行えることになり、社内の給与規定に縛られて採用ができない、ということがないようにしています。ただし、給与提示の柔軟性だけで採用を決めているのかいうと決してそうではなく、どこまでビジョンや風土に対して共感を得られるかという口説きの力も大切にしています。なので、候補者の中には「給与が下がってでもサイボウズで働きたい」と言ってくださる方もいらっしゃいます。
- 佐々木
- つまり待遇だけが採用のポイントではなく、ビジョンなどのメッセージの強さで勝負ができているということですね。そうした「その企業ならではの働く価値」をしっかり打ち出していくためには、どのような対策が考えられるでしょうか。
- 林
- 先ほどの内容と共通しますが、会社としてのメッセージの発信が大切になってくるかと思います。人事の方であればなぜこの会社に今自分がいるのか。経営者の方であればなぜこの会社、この事業をやろうと思ったのか。恐らく事業の将来性、共に働く方の魅力、四国という土地やそこに住む人々への貢献という要素が理由になるかと思うのですが、それをしっかり言語化して自らの言葉で訴求していくことが重要な対策になるのではないかと思います。
- 佐々木
- では「③首都圏企業の待遇水準が波及する」の対策としては、都会の水準と同じとまではいかなくても、休日数の整備や市場価値に見合った給与提示ができる体制を用意すること。その上で、待遇で勝負するのではなく、事業ビジョンへの共感をベースとした動機付けにこだわること。その2軸がテーマとなりそうですね。
- 佐々木
- 最後に本日の話のまとめとして、今後の備えのポイントについてお伝えができればと思います。
これからの採用戦略、特にUIターン人材の採用を想定した時にまずポイントとなることは、働きやすさと待遇の柔軟性です。首都圏の待遇水準が波及してくることを念頭に置いた上で、リモートワークなどの働く環境づくり、休日数、給与といった労働条件を整えていくことが必要となります。ただ、これはあくまでも最低限の土台となり、その上で経営・事業ビジョンを明確に示し、何をする組織・事業なのかというメッセージをしっかり発信いくことが大切になりそうです。また、そこで活躍していく個々人のキャリアにも目を向け、「やりがい」や「成長感」を感じられる環境があることがとても重要です。そして、その企業ならではの「働く」価値をいかにして明示して発信していくのか、これが今後の人材獲得では最も重要になってくるのではないかと感じています。
- 佐々木
- 私たちは、“四国ならではの「働く」価値を創造する”をミッションに掲げており、この四国にそうした「働く」価値に溢れた会社が1社でも多く増え、「四国には魅力的な企業がたくさんあり、このエリアはおもしろい」と、UIターンを希望される方に訴求できるような世界をつくっていきたいと考えています。これからもそれに繋がるアクションを続けてまいります。本日はご清聴いただき、誠にありがとうございました。
佐々木 一弥
(株)リージェント 代表取締役社長
香川県さぬき市出身。大学卒業後、2007年に株式会社リクルートに入社。求人広告の企画営業職として、香川・愛媛にて、四国に根差した企業の採用活動の支援を中心に、新拠点や新サービスの立ち上げも経験。2010年に販促リサーチを行うベンチャー企業の創業メンバーとして参画。創業の苦労と挫折を経験。2012年、株式会社リージェントの創業メンバーとして入社。2019年より代表取締役社長に就任。子どもと焚き火をするのが至福の時間とのこと。
林 忠正
(株)リージェント顧問、サイボウズ(株)取締役
2003年、大阪大学大学院を修了。以降、(株)UFJ銀行、(株)リクルート、大阪大学特任准教授を経て、2013年、サイボウズ(株)に入社。2016年より執行役員に就任し、経営企画室を立ち上げる。並行して、組織マネジメントに関するコンサルティング事業の立ち上げ責任者や、財務経理の責任者を兼任。2021年より取締役。サイボウズ入社後に副業として経営コンサルティング事業を展開し、四国本社の企業を始め複数の企業の経営・事業アドバイスを実施。2021年4月より(株)リージェント顧問に就任。