INTERVIEW2025.3.3

DX活用で国内外市場を開拓。売上倍増へ。ー日本食研HD(株)・桑山氏、海野氏ー

INTERVIEW2025.3.3

DX活用で国内外市場を開拓。売上倍増へ。ー日本食研HD(株)・桑山氏、海野氏ー

9,500品目のブレンド調味料と加工調理食品を開発・製造・販売しており、たれ類の出荷量・出荷額で国内NO.1を誇る日本食研ホールディングス(株)。国内はもちろん、海外にも生産拠点を設け、「“もっと美味しく”を世界でいちばん叶える会社になろう」という企業理念を着実に実践し、売上高は約1,500億円に及びます。同社は今後の発展に向けた重要なポイントとして、DXのさらなる充実・活用を掲げています。そこで今回は、日本食研の人財開発部長・桑山哲朗氏と情報システム部長・海野裕二氏をお招きし、事業の見通しや課題感、四国ならではの働く価値などについてお聞きしました。

「物売り」ではなく、「繁盛プランナー」


川田
最初に、御社の事業についてお聞かせください。
桑山
現在、日本食研グループ全体での売上は約1,500億円。約90%が国内、約10%が海外市場での実績です。
国内市場について、当社はスーパーなど小売業との直接取引を長く行ってきました。既に国内の大半のスーパーと取引があり、小売分野での新規開拓の余地は少ないと思います。一方、外食分野での取引はまだまだで、外食市場全体の10分の1程度しかありません。そこは十分に成長の可能性があります。


川田
御社の事業の強みはどういった点にあるとお考えですか?
桑山
メーカーでありながら、問屋を介さずに直接販売を行う、という製販一貫のビジネスモデルですね。当社にとって、商品力と販売力は車の両輪です。販売力があるから、商品力がアップするのです。
お客さまと営業が直接やり取りするので、営業はお客さまの立場になって、どうやったらこの商品が売れるか、一般消費者に喜ばれるか、今日の晩御飯が楽しみになるか、と考えるようになります。単なる「物売り」ではなく、言わばお客さまの商売繫盛を願う「繁盛プランナー」ですね。
特に外食のお客さまの場合、味や見た目はもちろん、効率性も大事です。人員不足の昨今、仕込みから調理まで全てお店でやるのは大変ですし、採算も合いません。その下ごしらえや、最後の決め手となる調味料・食材を日本食研が提供できれば、お店の効率アップにつながるわけです。
また、食品メーカーも当社のお客さまです。多くのメーカーが開発する商品には、タレなどの調味料が欠かせません。そこに、日本食研の提案の余地が生まれています。一度採用されると、全国販売される商品にずっと使用されるため、規模の大きなビジネスになります。
小売、外食、メーカーといずれの市場を開拓する上でも、製販一貫のビジネスモデルが原動力になっているのは間違いありません。
佐々木
同業他社で製販一貫に取り組むところはないのですか?


桑山
実は、純粋な意味で競合と呼べる会社はないんです。私たちは調味料メーカーで、タレのような液体からから揚げ粉のような粉体まで製造しています。これらの商品を、製販一貫で提供する会社は、他にありません。そのため、他社の動向を気にすることはなく、お客さまのために日本食研がどうあるべきか、ということに注力し続けています。お客さまにとっても、製販一貫であることのメリットを実感していただけるケースが多く、常にお客さま視点で考えています。
川田
お客さまのためにという考えが強いのですね。一方で、海外の市場はいかがですか。
桑山
海外は日本と異なり、外食への取り組みから始まり、今では小売業への取り組みも伸長してきた背景があります。ただし、海外では台湾を除き、基本的に問屋を通して商品を供給しています。
当初は日本の味を海外に持っていこうとしていましたが、現在は現地の食文化に即した商品を提供する方向にシフトチェンジしています。世界には様々な食文化があり、求められる味はその土地固有のものが多いんです。だから例えば、アメリカの工場で作る商品は、基本的にアメリカ市場だけのものです。現地の食文化を学び、現地に愛されるものを出していく、という形で展開していきます。
佐々木
本社敷地内にあるKO宮殿工場が完成したのが2006年。ヨーロッパでは宮殿が食文化の発信地だったことを意識し、またヨーロッパが好きだったこともあって宮殿工場を建てた、とお聞きしています。この頃から海外進出への意識もあったのでしょうか。


桑山
創業者は早くから海外展開を意識していたと思います。創業15年後の1986年には、台湾に海外拠点を開設していますから。
私が知っている宮殿工場を作ったもう1つの理由は、人が集まる場所にしたいという想いがあったと聞いています。宮殿がランドマークとなって、人が集まる。人が集まる場所は、必然的に栄える。見学に来た人が、楽しかったと言って帰り、次にまた子どもや孫を連れてきてくれる。そういう場所を作ろうとした時、思い当たったのが、食文化の発信地であるヨーロッパの宮殿だったと聞いています。当社の創業者はもともと研究者で、日本食研の名に「研」が入るのもそうした背景があるのですが、良い商品を研究開発し、世界中の多くの人に届けていきたいという思いは強いと思います。

DXでONE TO ONEマーケティングを実現


川田
外食業界など新たな市場を開拓するため、システム、DXの重要度は増すのではないかと思います。御社のDXの取り組みについて教えてください。
海野
日本食研はシステムについての取り組みも早く、1986年にはコンピュータシステムを導入し、受発注や出荷、会計処理に活用していました。やがて各拠点にパソコンが入ってきて、営業活動で必要な販売管理にも使われ始めました。その後、現場の要望に応えていく中で、必然的にシステムの内製も手掛けるようになっていきました。
昨今では、営業支援だけでなく、研究や工場における業務効率化のツールなど広範囲にシステムの活用が当たり前になってきています。外部のシステム会社さんのご協力をいただきながら、根幹となる部分は手作りで構築し、オリジナルなシステムやツールがたくさん稼働しています。


川田
多くのシステムが自社で開発されているんですね。
海野
会計・人事といった一般的な業務は、パッケージソフトのカスタマイズでも十分だと思います。しかし、自社の強みでもある製造から販売・物流など製販一貫体制を支える根幹のシステムは、そうはいきません。ビジネスの仕組み自体がオリジナルなので探しても既製品で補えるものはなく、自社の強みを活かすためにはオリジナルの開発が欠かせないものとなりました。そうして組みあがったシステムを更に強化することで、DXに向けての展望が開けてきています。
桑山
システムに限らず、本当に大事なものは、自分たちで内製しようという意識が昔からあるんです。それは日本食研イズムと言ってよいかもしれません。
佐々木
販売や物流に関するシステムには、どういう部分にこだわりがあるのですか。
海野
商品の種類、取引条件、伝票の種類、またプライベートブランドかナショナルブランドか…など、取引内容はお客さまの数だけ細かく分類されます。そこに販売戦略による数値情報を加え、季節限定販売したいとか、使用量に応じて取引価格を見直したい、などの諸条件が絡んできます。これらを取り込み、柔軟に使えるシステムを提供しています。
最近は、独自に開発した「食研アプリ」が10万ユーザーを越え、外食店などの多くのお客さまに活用してもらうようになっています。お客さまはいつでもアプリから注文ができますし、同業他社で人気となっているものや新商品の提案など、必要な情報をいつでも検索できるようになっています。
食研アプリから得られる情報は、マーケティングにとっても重要です。商品、業界、季節、地域、あるいは営業活動状況など、様々な軸からお客さまの購買行動を分析し、新たな商品提案につなげることができますから。言わば「ONE TO ONE」マーケティングが実現するわけです。

「食研アプリ」で情報提供から販売まで完結


佐々木
御社には50数年にわたってお客さまと直接取引してきたことによるデータの蓄積があります。そのデータをマーケティングに使えば、販売提案を後押しする強力なツールになりそうです。データもシステムも自社独自となると、他社は真似できないでしょうね。
海野
当社では、10年以上前から「人間の直感的な行動に適するスマホの世界はどんどん広がる」と言っていて、スマホを使った仕組みづくりに早くから注力していたのも良かったと感じます。
食研アプリのほか、営業スタッフの使う営業支援システムもスマホだけで完結できます。変わったところではラジオアプリ(ポッドキャストのようなもの)も自社開発しています。これは社内の各事業部がそれぞれコンテンツを作り、アプリ内で配信するのです。最近はどの事業部も凝りだしていて、毎月新しいコンテンツを出すようになっています。
桑山
外回りの多い営業員が移動の合間に聞いたりしています。開発部門が新商品の開発秘話を配信したり、定番商品の開発者のインタビューを流したり、営業の成績優秀者にインタビューした対談などもあります。
特に営業にとっては、商品開発の秘話も、商談の成功事例も、参考になることばかりです。これらの支援ツールから「この商品を特によく売っているのは誰だろう」「こういう業態の居酒屋には、こういう商品を提案しているのか」と気づきを得て、東北エリアの担当者が、九州エリアの成功事例を参考に提案を持っていく、などのシナジーが次々に生まれています。
川田
これほどいろんなアプリやシステムの作成を自前でやられていることに驚きます。開発はどのような形で取り組んでいるのでしょうか?
海野
早いものは数日でリリースすることもあります。一方、半年から一年以上かかるようなものもあり、常に何らかのプロジェクトが動いている感じです。
ICTに関する情報のキャッチアップのため、どこかの講習会に行きたいとか、この技術を学びたいと社員から申し出があれば、どんどん行かせています。少しでも可能性があればチャレンジするという風土が当社にはあるんです。
社員はみんな前向きで、新しい技術が出たらとりあえず触ってみる、という者が多いですね。「こういうことができそうです。勉強してきたので試していいですか」と自分から言ってくれたり、社内で勉強会をそれぞれが開催をしていたりと。そういうこともあり、最新の技術も敏感に採り入れている方ではないかと思います。


桑山
当社は2040年に、現在の2倍になる売上3,000億円という目標を掲げています。マンパワーだけでこの実績を作るのは困難で、食研アプリなどDXの有効活用が不可欠です。
2020年リリースの食研アプリのダウンロード数は10万件以上。アプリ経由の売上は、もう250億円を超えています。まだまだ伸びしろは大きいですね。

四国出身者でないからこそ実感できる、四国の良さ


川田
システム部門において、人財面での課題感はありますか。
海野
システム部には今35人が所属しているのですが、開発テーマも非常に増えてきており手が足りていない状況です。スマホ向けアプリ、WEBアプリ領域の技術や言語について経験のある方がもっと必要ですね。
それに加えて、データベースがわかる方も求めています。データを収集・分析して事業戦略につなげていかないといけませんから。ネットワークやセキュリティー、サーバー構築の経験者も必要です。
佐々木
一般的に社内SEと聞くと、社内の各システムが問題なく動くよう管理するのが第一の役割、と捉えがちですが、御社の場合は全く違っていて、最新のITトレンドもキャッチしながら、次々に会社や事業の進化や変革に関わるシステム開発案件に絡んでいくことができる。このあたりが面白みになりますね。
海野
自分の作ったシステムが、営業や各部署にどう使われているのかもわかりますし、足らない部分はすぐ改善できる。ユーザーが目の前にいて試行錯誤できるというのは、開発者としてありがたい状況です。
システム部門の人間が、営業と同行してお客さまを訪問することもあります。顧客から直接要望を聞いたり説明をしたりといったように。こうやって得た情報がアプリ開発に活かせるので、やりがいがあります。
川田
社内の雰囲気はいかがでしょうか。


桑山
日本食研がこれまで右肩上がりで成長できた一番の理由は、部門間や上下の壁がないことです。経営者が「この会社は社員の幸せを実現するためにある」と常日頃から社員に伝え、様々な環境づくりを通じてそれを実践している。だから社員も、誰に強制されるでもなく、自分のやりたいことがやれている、という実感があるのだと思います。みんな協調し合いながらやっていますね。
食品会社に勤めているせいか、みんな食べることが好きです。食べると笑顔になれるし、みんなでテーブルを囲むと楽しさも倍増する。それがそのまま、当社の社風になっているのではないでしょうか。休日等に一緒に、スポーツやレジャーを楽しむ社員も多いですよ。愛媛の外からやってきた人々も、自然と溶け込んでいます。
2009年に今の社長が就任してから、働き方改革にもかなり熱心に取り組みました。以前はほとんど男性だった営業も、最近の新入社員は4割が女性になっています。営業スタイルも以前は、営業自ら箱バンを運転して重い商品を納品する、といった配送業務も今では皆無になったおかげで、女性も安心して活躍できるようになったのです。そういう改革も、社員満足度の向上に大きく貢献していると思います。
佐々木
愛媛出身でないお二人が長く四国で働いておられますが、お二人は四国ならではの働く価値について、どう考えられますか。
桑山
愛媛は自然が豊かですね。海も山も近く、レジャーにすぐ行けるので、仕事から帰る途中で釣りをする、という人もいるくらいです。登山好きもサイクリング好きも楽しめる地域ですね。
私は入社して、初めて任されたのが富山での営業でした。当初は、方言がわからないし、地方で働くことにプラスの印象がなかったので、不満に感じていたこともありました。しかし、立山連峰を見ながら営業車を運転していると、気分がいいんですよ。恐らく、立山連峰をよく知る地元の人より、初めてその風景に触れる私の方が、感動は大きかったと思います。
愛媛も同じです。都会に比べると不便だし、最初は不満があるかもしれない。でも瀬戸内の海や、四国の野山に触れると、気分が変わってくるでしょう。それが地方で働く醍醐味ですよ。通勤時間だって、都会よりはるかに短いし、ストレスが少ないですから。


海野
仕事に入ってしまうと、都会だ、ローカルだという差は感じません。オフィスにいると、どこであろうとそれほど変わらないですから。都会かローカルかよりも、仕事にやりがいを感じられるかどうか、の方が大事。その点では、私は面白く過ごせていますね。研究、営業、事務、マーケティングなど様々な社員がすぐ近くにいて、工場もある。自分のシステムを利用する人が目の前にいる。そしていろんな開発案件がやってくる。常に新鮮な気持ちで仕事に関わっていけます。当社のシステム部に関しては、ルーチンが多くて退屈…ということは一切ありません。
桑山
特に本社は外を見渡せばテーマパークのような景観が広がっているので、休憩中ふと外を見たり散歩するだけですごく気分転換ができますよ。同時に地域のランドマークでもあり、地域からの期待を背負いながら世界に向けて事業展開をするという大きなやりがいにも向き合えるので、ここにしかない働き心地があるのではないかと思います。
佐々木
本日は事業、システム、社内風土、人財などいろんな観点の話をお聞きし、日本食研さんの強みに触れることができたように思います。お忙しいところ、ありがとうございました。

転職支援サイト「リージョナルキャリア」にて、日本食研HD株式会社の求人一覧をご案内しております。

求人情報はこちら


桑山 哲朗

日本食研ホールディングス(株)人財開発部 部長

1973年生まれ。大阪府出身。大卒後、料理が好きだったことと、面接官の魅力に惹かれ、日本食研に入社。営業に配属される。入社4年目、上司から「東日本エリアの採用担当を任せたい」と打診を受ける。全く考えていなかった職種に最初は戸惑ったが、「この会社を選んでくれた仲間が、幸せを実感してくれるような会社にしたい」と異動を受託。その後、一貫して人事に関わる。2003年、自ら手を挙げ愛媛本社に異動。現在は人財開発部の部長として、採用・教育を担当する。

海野 裕二

日本食研ホールディングス(株)情報システム部 部長

1972年生まれ、静岡県出身。大卒後の1995年に入社、営業を約2年経験。1997年、学生時代から志望していたシステム開発がしたいと、システム部門への異動を自己申告。以来、情報システム部でシステムの企画・開発・運用保守、改善に携わる。現在は同部の部長として、日本食研グループのDX戦略を主導。経営戦略の実現に向けた最適なシステム構築を追求している。社外セミナーにメンバーを参加させるなど、成長が実感できる環境づくりにも注力。現場のニーズに耳を傾け、会社の発展に貢献する姿勢を大切にしている。

PICK UP

INTERVIEW

DX活用で国内外市場を開拓。売上倍増へ。ー日本食研HD(株)・桑山氏、海野氏ー

2025.03.03

GROUP DISCUSSION

地元で働くことこそが、究極のSDGs。ー(株)北四国グラビア印刷・奥田氏、森本氏ー

2025.02.26

INTERVIEW

クレーン業界のリーディンカンパニーとして、信念をもって業界スタンダードを創る。ー(株)タダノ・合田氏ー

2025.01.29

GROUP DISCUSSION

地方の鉄道会社が見せる、非鉄道事業の本気とスピード感。ーJR四国・四之宮氏、平田氏ー

2024.10.30

GROUP DISCUSSION

ボトムアップの風土が、チャレンジを生む。ー(株)マキタ・落合氏、高山氏、中西氏ー

2024.08.28

INTERVIEW

AIサービスの正確性・実用化を支える、独自の自然言語処理技術。ー(株)言語理解研究所・樫地真確氏ー

2024.08.07

INTERVIEW

世界の電力不足解消に、四国の技術が貢献する。ー四国電力(株)国際事業部・橋本氏ー

2024.06.26

GROUP DISCUSSION

使命感をもって、四国から世界に電気を届ける。UIターンで、スピード感のあるダイナミックな仕事に出会った。ー四国電力(株)・国際事業部 宮川氏・伊藤氏・神谷氏ー

2024.06.26