INTERVIEW2023.11.8

培ってきたモノづくり技術で世界を舞台にした挑戦を。ー(株)森川ゲージ製作所・森川正英氏ー

INTERVIEW2023.11.8

培ってきたモノづくり技術で世界を舞台にした挑戦を。ー(株)森川ゲージ製作所・森川正英氏ー

ラップ仕上げを含め、ミクロン単位の寸法精度、幾何公差、表面粗さを実現する精密仕上げ技術を活かし、船舶用エンジン機器や建設機械用油圧機器などの製品を提供する(株)森川ゲージ製作所。その技術力の高さが評判を呼び、昨今では海外からの引き合いも具体化するなど、技術を基盤とした成長を続けています。同社の経営を担っているのが森川氏です。今後はIPOも視野に入れ、「約70年の基盤を持つ会社だが、スタートアップのようにがむしゃらにチャレンジできる環境と可能性がある」と語る森川氏に、四国ならではの働く価値についてお聞きしました。

精密加工の技術を活かし、「ゲージ」作りをスタート


御社の創業のきっかけを教えてください。
森川
創業者である祖父は、戦艦大和などを作った広島県呉市の海軍工廠でエンジニアとして働いていました。やがて、祖母の実家がある香川県木田郡三木町に疎開。戦後は、地元の船舶用エンジンメーカーで9年働いた後、1955年に現在の森川ゲージ製作所を創業しました。
佐々木
なぜ「ゲージ」に着目されたのでしょう?
森川
戦前は、歪みや変形がある部品を現場で一つずつ微調整して組み立てる、というものづくりをしていました。しかし工業化が進み、大量に作るとなると、部品の寸法を最初から揃えておく方が効率的です。現場での微調整が不要になりますから。
部品の寸法を精度良く合わせるため必要になるのが、精密測定器具のゲージです。長年エンジニアをやっていた創業者は、これからはゲージが求められる世の中になる、と気づいたのです。重要な部品の割に初期投資がそれほどかからず作れますし、創業者の仕上げ技術の高さには定評があったので、やってみようと思ったようです。


事業は順調に進んだのですか?
森川
いや、そうはいかなくて。創業当時は、「ゲージを作れます」と言っても、ゲージの製作依頼はすぐにはこなかったようです。そこでできることは何でもやろうと、ゲージ以外の依頼でも断らずに受注をしていました。初めての仕事は釣り鐘に字を彫ることでした。その後も、表面をきれいに仕上げる技術を活かし、包丁を研いだり、チョッパーと呼ばれる穀物を家畜のエサ用に粉砕する機械を自作し、「ゲージ屋が研いだ刃なので極めて細かく切れる」などと謳って売ったりしていたみたいで、実際によく売れたようです。技術が求められるのなら「どなんかする」という当社の姿勢は、この辺がルーツかもしれません。
ゲージを作る高い技術があったから、転用もできたのですね。
森川
その後、うわさを聞いた玉野市のエンジンメーカーなどから徐々に依頼がくるようになり、ゲージ事業が本格化しました。しかし、加工機の能力が向上し、ゲージで測らなくても同じ寸法の部品が作れるようになってきました。そこで、父である先代社長が他分野への進出を目指しました。目をつけたのが、建設機械用油圧バルブです。高い圧力を伝え、かつ建機の軽量化を進めるには高精度でコンパクトなバルブが必要とされていました。ここに、精密仕上げ技術が活きたのです。バブル景気の頃は取引先の成長も著しく、当時学生だった私も学校が終わって家に帰ったら仕事を手伝う、というくらい忙しい毎日が続いていました。

ところが、バブル崩壊とともに発注量が大幅に減り、厳しい時代も経験しました。私が大学を卒業する頃がちょうどそのような時代だったため、父親から声をかけられることはなく、私は私の道を行こうと決め、静岡本社の会社に就職しました。

理念の共有が、安定成長につながった


佐々木
大卒後、別の会社に就職した社長が、森川ゲージに戻ってくるきっかけは何だったのですか?
森川
就職先での仕事は、あらゆる分野の顧客の製造プロセスにおける課題を見つけ改善を提案していくことだったため、名だたる企業の製造プロセスをいくつも見てきました。また、会社からよく「自ら事業を創り出せる起業家になれ」というメッセージを受けていたこともあり、自身で事業を創り出していくことにチャレンジしていくのもいいな、というマインドをもつようになっていました。

そんな中、先代が倒れたという連絡を受けました。復帰はできそうだけど、障がいが残るかもしれないという状況で、私としては、ようやく仕事が軌道に乗った時期で、経験を積み起業していくことも頭にあったため、家業を継ぐという意志決定に当初は躊躇しました。その一方、後継者として経営に携わるチャンスがあるのにやらないのは、逃げているようにも思えました。悩んだ末に、会社に戻って事業を立て直すのも、起業することと同じではないかと思い直し、Uターンで家業に入ることを決断しました。森川ゲージに入社してからは、様々な現場を経験しながら父の経営をサポートし、研鑽を積み、39歳で社長に就任しました。
佐々木
経営は順調に進められましたか?


森川
社長になって1~2年目は数字を追い、売上も利益も順調に推移しました。しかし、数字だけを追い求める経営には限界があり、3年目には業績が失速していきました。すると社内でほころびが出始め、その結果、社員が大勢辞めてしまったんです。話を聞くと、私が良かれと思ってやっていたことが、社員には大きな負担となっていたことに気が付きました。

それからは、理念を重視するようになりました。「どなんかするを誇りに どなんかできるを喜びに」という理念を中心に社会、顧客、社員に対する私たちの責任を明確に定め、全員で共有しました。当社の理念と方針をまとめたコアバリューカードは、社員みんなに配って常に携帯してもらっています。

社員への還元にも力を入れました。利益が出たら社員へ還元することを継続しており、直近でも10%以上の賃上げを実現しています。理念やコアバリューへの共感がない人が去っていったことで、結果的に価値観を共有できる人材が残る会社となり、会社が向かいたい方向への推進力が増し、利益を創出する力も上がったのだと思っています。
今後の経営ではどのようなことを課題にしていますか?
森川
私は2代目社長の長男として生まれ「3代目が、組織が長続きできるかどうかを決める」と言われて育ちました。3代目候補として入社してから、何が理由でそうなってしまうのかを考えてきました。創業者の苦労や想いを知り、それを受け継ぎ事業を拡大した2代目の功績を讃えつつ、今後も社会に対して高い付加価値を提供し続けていくために、変えてはいけないことと変えなくてはならないこと、この両面をとても意識しています。理念やコアバリューを策定する際にも創業者や2代目が大切にしてきた想いを正しく理解することを特に重視しました。それを理解したうえで、変えるべきことは私自身の手で叩き潰す覚悟でいます。

また、私の代から次の代となる4代目への継承に関しては同族経営にこだわらない形も模索しています。リーダーは血の繋がりが理由で継承するものではなく、リーダーにふさわしい才覚と覚悟をもった人が継承していくべきだと考えています。会社は社会の公器であるとも考えており、それを示すためにIPOも視野に入れています。そのためには、製造業でIPOできる目安と聞いた売上30億円、社員数150人という目標も公言しています。

100点の精密性を実現できる会社は、世界でも数少ない


事業の現状と、今後の方向性について教えてください。
森川
現在は、船舶用エンジン機器分野と、建設機械用油圧機器分野が事業の柱を形成しており、自社開発の建設機械用アタッチメント部品の分野も徐々に伸びています。いずれも、ミクロン単位の精密仕上げができるという、当社の創業からの強みが発揮されている分野です。
この実績を基盤に、今後は積極的に海外に出ていきます。大型船は世界中の物流で活躍しているため、舶用エンジンパーツもグローバルに流通しています。当社はエンジンパーツのうちでも燃料制御に関わるパーツ、ターボチャージャーのパーツなど重要部位を扱っており、グローバルでも製作可能な会社が限られている領域です。技術の高い会社には、大きな興味を示してくれます。既に、商談も進んでいます。
佐々木
自動車などではエンジン車から電動車への切り替えが進んでいますが、船はどのような状況ですか?
森川
船においても、脱炭素化が喫緊の課題であることは間違いありません。ただし、特に大型船などでは、出力や航続距離、輸送量の問題で、動力機構を変えるのではなく、燃料を石油からガスに転換することで対処しようというのが主流です。エンジンが、これまで同様に必要になります。
ただし、燃料が気体となると従来以上の精度が部品に求められます。その要求に応えられる精密仕上げや微調整を提供できる会社は、世界を見渡しても多くありません。それができる当社には、大きなチャンスが到来している、とも言えます。
佐々木
ものづくり分野は、AIやDX導入による無人化・自動化が進んでいます。それらの影響により、やがて競争相手が増える状況も想定されるのでしょうか。
森川
当社も工場の自動化には力を入れていて、毎年、売上の一定割合で設備投資を続けています。自動化によって工程が効率的になれば、社員にもメリットがありますので。
ただし、自動化・無人化の設備だけで作れるのは、せいぜい70~80点の製品といったところです。私たちが担当するような100点の精密性が要求される部品となると、最後には人の手による調整が欠かせないのです。扱う素材が、粘りがあって硬くて削りにくい、といった複雑なものなので、工具が摩耗してくるとすぐ加工できなくなってしまいます。私たちはそういった、難しい局面にずっと首を突っ込んでやってきました。そのスキルが海外から重宝されているのです。
「どなんかする」の理念でやってきた賜物ですね。


森川
難しい加工で他に請け負えるところがなく、「森川さんだったら何とならないか」と頼まれると、嬉しくなりますよね。実際にできたら、自信につながる。今いる社員はみんな、そうやって腕を磨いてきた者ばかりです。実は当社には営業専門の社員がいないんです。口コミや信用で、できる領域が広がっていきました。
佐々木
他にも、目指す分野はありますか?
森川
自社で培ってきたエンジニアリングを製造効率化のコンサルティングと共に他社へ提供する分野にも注力していきます。これまで国内ではあまり出回っていない様々な加工機も取り扱ってきました。おそらく国内でここまでニッチな設備を保有している会社は珍しいと思います。また、自動化に向けた設備改善にも取り組んでおり、人と協働する海外製の産業用ロボットの導入もいち早く取り組みました。
一方で、周りを見渡すと、中小企業向けの無人化・自動化設備は、なかなかありません。中小メーカーの多品種少量生産には合わないのです。しかし、我々は自社で様々なチャレンジをしていく中でそのノウハウを獲得しています。これらは日本のモノづくりを支える多くの中小企業の発展に大きく貢献できるのではないかと考え、新たな分野として取り組んでいきたいと計画しています。

他にも、新たな分野への挑戦は積極的に行っていく予定で、軌道に乗りそうな事業は独立させて会社を立ち上げ、グループ体を構えられるような状態を目指すことも構想しています。そうなれば、グループ会社の経営は社内で育成した、あるいは中途で来てもらった経営幹部候補に任せていきたいと思います。
これらの経営は、スタートアップのようなものかもしれません。実際のスタートアップには大きなリスクが伴いますが、当社には従来事業の手堅い基盤があります。その土台を活かしながら挑戦できるのですから、スタートアップを志向する人にはチャレンジしがいがあるのではないでしょうか。

スタートアップのつもりで、四国から羽ばたいてほしい


佐々木
四国ならではの「働く」価値について、森川社長はどのようにお考えでしょうか。
森川
先日、海外の需要を知るためにシンガポールに行ってきました。我々は地方の中小企業ですが、グローバルに出れば企業の大小は関係なく、目の前に提示されたその仕事ができるかどうかなのです。数日間の滞在でしたが、日本に帰ってすぐに発注依頼の連絡があり、我々の技術力は非常に高く評価をされていることを実感しました。もちろん海外だけではなく、国内からも「森川ゲージにお願いしたい」と言って仕事を持ってきてくれるお客様がいます。確かな技術を持ち、付加価値の高い製品を作っていれば、日本国内だけではなく海外からも声がかかる時代です。四国にいながら世界を相手にする。そのようなチャレンジする風土と能力を持った会社が、四国にもあるのだと気づいてほしいですね。
当社は今後、海外展開を加速させます。そのためには英語力が必要です。英語を武器に活躍したいという意欲や、海外に駐在したことがあるという経験は、当社で即戦力として発揮できるでしょう。
スキルを活かし、やりがいを持って働ける会社は、四国にもあります。当社もその一つです。
実際に森川ゲージ製作所では、首都圏からのUターン組や大手から転職してきた人がコア人材として活躍していますね。
森川
首都圏からUターンしてきた技術者は、当社に最新の工作機械を活用した高度な製造スキルをもたらしてくれました。おかげで、職人技に頼りがちだった当社の製造現場のレベルが格段に上がったと思います。また金融業界から転職してきた社員は、経理や財務、管理会計を整備し、未来を見据えた強固な経営基盤づくりを支えてくれています。
今後も、積極的に人材を採用し、能力に応じた登用を行っていく予定です。将来的なグループ構想も踏まえて、経営者を目指したいという幹部候補の採用にも力を入れていきたいと思います。四国にUIターンしてやりがいを感じられる仕事があるのだろうか…と不安を覚える人に、チャンスや環境を提供するのが私の務めでもあると感じていますので。


御社のようなチャレンジする姿勢を持つ会社が四国にあると分かれば、きっとUIターン検討者は勇気をもらえますね。
森川
大手企業で、能力が高くマインドもあるのにそれを活かせるポジションが回ってこない。また、気がつけば社内調整ばかりで、価値創出につながる行動は全然できていない。そういう人も多いのではないでしょうか。そんな方々の選択肢として、地方の中小企業に来て経営幹部や部門長を目指し、思う存分に力を発揮するというキャリアパスもあるように思います。そんな方には、ぜひ当社の門をたたいて欲しいですね。
佐々木
実力があれば、地方にいても仕事の依頼はやってくるし、海外にも出ていける。そんな会社が四国にあることを、私たちも心強く感じます。
お忙しいところ、今日はどうもありがとうございました。

森川 正英

(株)森川ゲージ製作所 代表取締役社長

1975年生まれ。日本大学理工学部を卒業後、2000年に矢崎化工(株)に入社。上司から「起業家になれ」と指導を受けながら、顧客の工場の改善活動につながる商材の提案営業を行っていた。入社3年目を迎えた頃、森川ゲージ製作所を経営していた父が体調を崩す。自身の仕事が軌道に乗っていた時であり、2年間悩んだ末、地元へのUターンを決断。(株)森川ゲージ製作所に入社する。その後、様々な現場を経験して事業を学びながら、父の経営をサポート。2014年、代表取締役社長に就任する。

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