福井さんの「働く」価値
- 佐々木
- 今日は、HOXINの福井さんをゲストにお招きしてお話をしていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。
- 福井・林
- よろしくお願いします。
- 佐々木
- ではまず初めに、福井さんのプロフィールを簡単にご紹介いただけますでしょうか。
- 福井
- はい。私は香川出身で高校卒業までは高松市で過ごし、大学進学より関東に出て、そのまま都市銀行に就職しました。銀行では国内だけではなく、海外での仕事も経験し自分がやりたいと思える仕事は一通りできたなという思いがあり、30歳になる手前で「転職」という選択肢がでてきました。それから、ご縁があって香川にUターンすることになり、現在は主に中四国のベンチャー企業への出資および経営支援をする会社で仕事をしています。だいぶ端折りましたが、大体こんな感じです。(笑)
- 佐々木
- ありがとうございます。銀行での仕事を経て、現在の仕事に就いているわけですが、銀行での経験が今の仕事に繋がっているという感じでしょうか?
- 福井
- そうですね。銀行時代に印象深かった仕事の一つに、大阪の「にしなかバレー」というベンチャー企業が集積したエリアを担当したことがあって、そこで出会う経営者たちにとても刺激を受けました。世の中に新しい価値を提案しようという創業経営者の熱さに触れ、銀行で支援できる業務の垣根を越えてこういう方々を応援していきたいなという気持ちがどこかにありましたね。転職を意識した時には、今のような仕事をやろうと考えていたわけではなかったんですが、リージェントさんからの紹介で、地方のベンチャーを支援する会社がこれから立ち上がる予定だという話を聞き、社長の真鍋にお会いした時に、「これだ」となったんです。
- 林
- 銀行での経験と現在の仕事が、そこで接続しているんですね。聞いたところによると、福井さんはそもそも転職活動をする時にUターンすることを決めていなかったと聞いているんですが、本当ですか?
- 福井
- そうなんです。転職を考えた時に地元で働くということは選択肢の一つではあったんですが、特にUターンを絶対すると決めて活動したわけではなかったです。
- 林
- Uターンする人の中では、結構珍しいパターンですよね。
- 福井
- そうかもしれないですね。私の場合、やりたいと思える仕事が香川にあったということが大きいですね。前職をやめようと思った理由の一つに、とても尊敬していた上司が役員になれなかったという出来事があって、私から見ると、とても仕事が出来て想いも強く、自分の意見をしっかりと組織に伝えていける方だったんです。ただそういう人が評価されず、組織に従い続ける人が昇進していく様を見て、思うところがありました。いつか自分も、心に反した「Yes」を繰り返すことになりそうで、そんな未来でいいのか、というもやもやした気持ちがありました。
- 佐々木
- なるほど、転職を考えた理由がそういうところにもあるんですね。
- 福井
- はい、それもあって転職で決めていた軸は、純粋に自分がやりたいと思える仕事をやろうということでした。そのため、会社の規模などは関係なく、誰とやるか、どんなビジョンのために何をやるか、が全てでした。
- 佐々木
- それで、HOXINさんを選ばれたということなんですね。その選択をした決め手はなんだったんですか?
- 福井
- 入社を決めた時は、会社がまだ存在していない状態だったんですが、社長の真鍋がやろうとしていることにとても共感がもてました。銀行時代にベンチャー企業の経営者から受けた刺激と、地元の四国でその流れをつくっていく支援をするということは、純粋に心からやってみたいと思えるテーマでした。
- 林
- 福井さんのご経歴を考えるとかなり思い切った決断に感じられます。そうしてもいいと思えるくらいのテーマだったんですね。
- 福井
- はい、よく周りからも言われるのですが、自分としては直観を信じて決断したことなので、不安に感じることはほとんどありませんでした。
HOXINが目指す四国のベンチャー企業の支援の形
- 林
- HOXINさんは投資する企業にどんな基準をもたれてるんでしょうか?
- 福井
- 投資基準は、けっこう直観的なものが大きいです。主なエリアは中四国になるのですが、その地で面白いと感じることをやっているかどうかがまずの基準ですね。真鍋の想いは、この地に才能ある人が集まるような企業、産業を作り出すことを目的にしているところがあるので、投資の段階で細かなデューデリをして短期的なキャピタルゲインを得ることが主目的ではなく、経営者の「人」を見て投資の意思決定をすることが多いです。
- 林
- なるほど、単なる資本的リターンではなく、中長期目線で社会的な価値を発揮する可能性がある会社を育てていくようなイメージでしょうか?
- 福井
- まさにシード期やアーリー期からの投資が多く、最近は東京のVC(ベンチャーキャピタル)の方々との繋がりも生まれていて、我々が出資して関わっていくことで、VCが出資する際の信頼となり、より大きな資金調達を実現させる橋渡し的な役割を担うことも増えてきています。
- 林
- 最近、同じように中長期目線で、社会的な価値がありそうなところを専門に投資するようなファンドが増えてますよね。地方における先駆け的なポジションとしてHOXINさんがそのノウハウを蓄積してモデルケースになっていくというのは、目指すところとしても面白いですね。
- 福井
- 我々が応援している企業の中には、VCが出資するには、収益性の観点で難しいような会社も存在していて、それでも社会的意義があると感じるなら支援するということもやっていますので、そういう視点も大事にしていきたいと考えています。
- 佐々木
- 実際に投資されているのは、どんな会社なんですか?
- 福井
- 現在、13社に投資をしています。その中で四国の投資先を紹介すると、香川では建設現場での過酷な仕事を人間に代わり稼働してくれるロボットを開発している「建ロボテック」や地方からITによるイノベーションに取り組む「Dreamly」、カメラによる成分分析で人に見えないものを可視化する仕組みをつくっている「Soilook」、視覚障害者向けプロダクトを開発する「Raise the Flag.」があり、愛媛では植物の生体情報に基づく栽培技術のIoT化にチャレンジしている「PLANT DATA」、徳島では一次産業の活性化を掲げIoTを用いた牡蠣養殖に取り組む「リブル」、食糧危機に備えてこおろぎの食用化に取り組んでいる「グリラス」などがあります。
- 佐々木
- え、こおろぎを食用ですか!?
- 福井
- はい、こおろぎ、おいしいですよ(笑)。日本ではまだ抵抗ある人が多いかもしれませんが、ヨーロッパではかなり昆虫食は浸透してきているようです。日本でも最近密かなブームが起きていて、こおろぎせんべいはなかなか手に入らない状態になっていますよ。あと、こおろぎラーメンとかも出てきています。
- 佐々木
- こおろぎラーメンですか!?全く味が想像つかないですが、怖いもの見たさで食べてみたいですね。。。すみません、話の一部に食らいついてしまいました。
- 林
- こおろぎは驚きですね(笑)。投資先の会社を聞いていると、この地だからこそ見えた課題感を解消するために取り組んでいる会社が多いという感じでしょうか?
- 福井
- そうですね。必ずしもこの地にある課題という感じではないかもしれませんが、各県の大学発で生まれたベンチャー企業が多いということが一つの特徴としてあるかもしれません。確固たる技術があり、それらをビジネスとしてどう活かしていくかというところに取り組んでいるところは多いですね。
- 佐々木
- 四国は人口の面で全国平均より先んじて減少を経験していることから、都会では見えにくい、社会的な課題への気付きがたくさんある環境かもしれないですね。そういったところを解消するために立ち上がったベンチャー企業は多いように感じます。例えば、離島間の物流をドローンを使って自動化していくプラットフォームを構築している「かもめや(香川)」や衰退していく地方の交通における課題解決に取り組んでいる「電脳交通(徳島)」なども注目のベンチャー企業ですよね。この地で成功できれば、同じ課題を抱える全国、および世界へも展開できるモデルになることも期待されていますよね。
- 福井
- まさにそういう可能性を秘めたベンチャーは多いと思います。最近、都会のVCも地方の企業に目を向けて投資をすることもかなり増えていますので、地方だから不利だということはお金の面ではなくなってきているように思います。実際、香川では「未来機械」が過去に7億円の出資を受けていますし、「かもめや」もドローンファンドを始めとした複数のファンドより2億円超の資金調達をしています。徳島でも、「グリラス」は直近でBeyond Next Venturesからの出資も含め2億3000万円の資金調達をしていますし、「電脳交通」も三菱商事など大手企業との資本業務提携で5億円の調達実績があります。
- 林
- 一方で、四国のベンチャー企業が抱える課題感には何がありますか?
- 福井
- 課題といえば、やはり人を集めるのには苦労をするというところがあげられると思います。この地で、ベンチャー企業で働くということに対する認知が良くも悪くも馴染みがないことから、分からないものはリスクと捉えられるため、募集をかけてもなかなか集まらない、集まったとしても最終的に移住を伴う転職を実行してもらえないこともある、というのが実情です。四国からIPOする会社が出てくるようになればこの流れは変わってくるようにも思いますが。
- 林
- やはり「人」のところでの課題感があるんですね。確かに地方に来てベンチャー企業に就職すると、もしそこでダメだったら後がないという印象があるのかもしれないですね。そういう意味では、仮にその会社でのチャレンジが実らなかったとしても、この地で他にもチャレンジできる機会が提供できて、挑戦した上での失敗が前向きに受け入れていけるような風土、セーフティネットのようなものが存在していければいいのかもしれないですね。
- 福井
- まさにHOXINとしてもそのような機会が提供できる体制がとれればいいなと考えています。そのためには、この地に多様なベンチャー企業が生まれ、横の繋がりを大切にしながら成長できる環境を整えていく必要があると考えています。
- 佐々木
- 先日、林さんとの対談で、「四国を一つのチームに。」と話していたところとも通じる感じがありますね。
(※対談コラム:「四国全体を一つのチームに。」)
- 林
- そうですね。人材活用の形はこれからもっと多様な形になっていくと感じています。私自身、上場企業の役員として働いていますが、今年業務のために出社したのはまだ1日もありません。自部門のメンバーも自分の地元に居を移し、リモートで働いています。こんな状況がこの1年で当たり前の形になってきていて、もはやコロナ禍どうこうではなく、普通になりつつあります。ただ逆に考えれば、これまで東京にいる人材を地方の企業が活用していくのが難しかった状況が、アプローチ次第で可能になってきているという事でもあります。
- 佐々木
- 副業が推進されている状況もあり、追い風と考えることもできますよね。
- 福井
- なるほど。そういう形で優秀な人が地方に目を向けてもらえるようになるのは実現できればいいですね。地方のベンチャー企業の場合、限られた人材の中でなんとかやろうとする感じになるので、「人」にまつわる課題感が堪えず、我々もよくそういう現場に関わることも多いのですが、そういうところに新たな風が入っていくことは期待したいです。
- 林
- 都会で働いていて、優秀なのにポジションや機会がなく、くすぶってしまっている人も多いように思います。そういう人が地方に目を向けて活躍の機会が得られるようになればいいなと思っていますので、ぜひ取り組んでいきたいテーマですね。
- 佐々木
- そのためには、給与や待遇面をある程度は整える必要がありますが、本当に大事なのは、福井さんのように、この地で、この人と、このテーマに取り組んでみたい!と心からそう思える覚悟が決められる機会をどれだけ創っていけるかですね。もっともっと四国で立ち上がっているベンチャーのことを知ってもらいたいですし、そのビジョンへの共感を増やしていきたいですね。
- 福井
- まさにそうですね。私も知人からよく地方で働くのってどうなの?と聞かれますが、そういう覚悟が決められれば、この地で活躍していくことは本当にやりがいがありますし、毎日がとても充実しています。またそのチャレンジに生じるリスクを少しでも払拭できるようにセーフティネットを整えていくことも同時に進めていきたいと思います。
- 佐々木
- ぜひこれからも四国を盛り上げていくために、協業できる部分は一緒に取り組んでいきたいですね。今後ともよろしくお願いします!
- 福井
- こちらこそ、よろしくお願いします!
福井 健太郎
HOXIN(株) マネージャー
香川県高松市出身。2011年慶應義塾大学商学部卒業。都市銀行に入行し、主に法人営業を担当。埼玉、大阪、海外駐在(インドネシア)、人事部(新卒採用)、東京勤務を経て2018年12月に香川県へUターン、2019年1月よりHOXIN勤務開始。主にファイナンス、人事面のサポートを行う。アンカーズ(株)の社外取締役。中小企業診断士。
佐々木 一弥
(株)リージェント 代表取締役社長
香川県さぬき市出身。大学卒業後、2007年に株式会社リクルートに入社。求人広告の企画営業職として、香川・愛媛にて、四国に根差した企業の採用活動の支援を中心に、新拠点や新サービスの立ち上げも経験。2010年に販促リサーチを行うベンチャー企業の創業メンバーとして参画。創業の苦労と挫折を経験。2012年、株式会社リージェントの創業メンバーとして入社。2019年より代表取締役社長に就任。子どもと焚き火をするのが至福の時間とのこと。
林 忠正
(株)リージェント 顧問、サイボウズ(株)取締役
2003年、大阪大学大学院を修了。以降、(株)UFJ銀行、(株)リクルート、大阪大学特任准教授を経て、2013年、サイボウズ(株)に入社。2016年より執行役員に就任し、経営企画室を立ち上げる。並行して、組織マネジメントに関するコンサルティング事業の立ち上げ責任者や、財務経理の責任者を兼任。2021年より取締役。サイボウズ入社後に副業として経営コンサルティング事業を展開し、四国本社の企業を始め複数の企業の経営・事業アドバイスを実施。2021年4月より(株)リージェント顧問に就任。